「メガネ越し、傍目八目(おかめはちもく)、右も左もぶっ飛ばせ!」


            ONと一緒に過ごした子供達


            
            ミスターG 栄光の背番号 3


昔の野球場は、今のようにプレイ中に皆で声をそろえて応援するなんて事は
ありませんでした。投球中は かたずをのんで見守り、声援はその間に
という感じでした。今は、お祭りに参加してるような雰囲気ですが、
昔はもっと「野球」を楽しみに行く感が強かったと思います。



だから、手拍子と声をそろえた声援が1回から9回まで続くやかましいものではなく、
静寂が必要な時はそれがちゃんと訪れる、あるべき姿の野球場でした。



ミスターの思い出は皆さん各々がお持ちだと思います。
天覧試合やタイガースの村山投手との戦いなど、有名なシーンは数限りなくありますが、
今から40年近い前でしたか 私にとって忘れられない試合がありました。



それはジャンボスタンドさえなかった後楽園球場での試合です。
その時、私は白黒のテレビにかじりつくようにして、
多分、記憶にまちがえがなければ、巨人対産経(現ヤクルト)と思いますが、
その試合にいつものように見入っていました。



産経の攻撃中、サードはもちろんミスター。
そして そのすぐそばの三塁コーチスボックスに、
あの中西太さんがバッターにサインを送っていました。



産経の選手がそのサードコーチスボックスにショートバウンドのファールを打ちました。
すると、中西さんはそのハーフライナーを左手、素手ですくい上げました。
ちょっと想像してみてください。ショートバウンドをサッと素手ですくい上げた瞬間て、
なんか気持ちいいじゃないですか?おそらく、中西さんも気持ちよかったんでしょう。
何と彼は、とったと同時に右手に移し、左腕の下から右手で2メートル横にいる
ミスターの顔へ向かってスナップスローで(トスのようなゆるい球ではありません)
ボールを送りました。




と、その瞬間、ミスターの体の上半身だけが
ピッチャーズプレイトのほうに揺れるように流れはじめました。
そして顔に向かって飛んでくるボールを自分の右耳あたりでキャッチするやいなや、
ジャンピングスローでピッチャーの堀内に返したのです。
球場に鳴響くパーンという捕球の音。




この間、2秒。
何の打ち合わせもなく、しかも敵どうしがゲーム中に 
この「2秒間のアドリブ劇場」を披露したのです。
至近距離からファールの返球をジャンピングスローで返された堀内は、
鳩が豆鉄砲くらったみたいにびっくり。




そしてなにより その時、後楽園の4万人の観客の
「はぁ〜」というため息が、テレビを通してはっきりと聞こえてきたのです。
[今日、ここに来てよかった」というため息です。
もっとも、当の二人は何事も無かったように次の投球にそなえています。
まさしく、お金を払って見にいく、[プロの野球」がそこにありました。
今でもこのシーンは、ミスターの思い出として、はっきりと私の心に残っています。
身の毛がよだつほど、かっこよかったなぁ〜。   続く。