「メガネ越し、傍目八目(おかめはちもく)、右も左もぶっ飛ばせ!」






            

             ONと一緒に過ごした子供達

            最初で最後に見た王選手のホームラン




私が二十三歳の時、友人が「今年、大阪球場でやるオールスターの切符、
もらったけど いっしょにいこか」と誘ってくれました。
二つ返事でOKした私は、その日を心待ちにしていました。
なぜなら不世出の大打者を見るのが最後になるかもしれない、
そんな予感があったからです。




当時、大阪球場は難波にあり、狭くてすり鉢のような形をした球場でした。
その時のメンバーにはオールスター初出場の落合選手の姿もあったと記憶しています。



私と友人はそのすり鉢のような球場の上のほうから、
それこそ選手を崖の上から見下ろすようにして観戦していました。
そして1回の表、4番、王に打順が回ってきました。



いままで王選手の試合は何度も見ましたが、
残念ながらホームランを見たことは一度もありませんでした。
「最後になるかもしれない、しっかりと目に焼き付けておこう」
そう思って前のめりになって見ていたその瞬間、
私たちの上空に大歓声とともに1本の大きな放物線が描かれました。
夕暮れの空に描かれたその放物線はカクテル光線に照らされ、
虹となって満員のライトスタンドに消えていったのです。



私と友人は手を取り合って喜びました。
友人はそのあと立ち上がって王選手にむかって何かを叫んでいました。
私は王選手がホームで待つセリーグの選手全員に迎えられ、
そしてスタンドにむかっつて笑顔で手を振る姿を見て、
「間に合った。野球の神様が降りてきて、思い出を残してくれるようにしてくれたんだ」
と、心の中で何度もつぶやきました。



私は試合が終わるまで、ゲームはそっちのけで「背番号1」を見つめ続けました。
そして試合が終わった後、私は無意識のうちに、王選手にむかっつて頭を下げていました。
「ありがとうございました」その一言でした。




そのシーズンの終わり、世界のホームラン王は静かにバットを置きました。