「メガネ越し、傍目八目(おかめはちもく)、右も左もぶっとばせ!」






全くのプライベート話です。
私の両親はいま八十五歳でおかげさまで健在です。
その健在な母親が胸にしこりがあると言い出しました。
聞けばピンポン玉ぐらいあるといいます。




以前に乳がんの手術を受けている私の姉(すなわち娘)が
「なんでそんなになるまで!」と
自分が日ごろお世話になっている
日赤の先生のところに引っ張って行きました。




いろいろ検査を受けて、一週間後に結果の告知の日がやってきました。
「ご家族の方と一緒に・・・」と伝えられていましたし
年齢も年齢ですから本人も、私たちも悪性であることの覚悟はしていました。




当日、説明を聞きに、父と私と三人で診察室に入りました。
覚悟の上とはいえ、三人とも身を固くして先生と対面します。
先生は私たちに検査の結果が悪性だったことを告げ
なぜこのようなものができるかを、わかりやすく説明されました。




そのあと、「どこにできいるかというと、導管といって・・・」
その時、母親が「なんやセンセ、乳腺と違いましたんか」と口を挟みました。
するとその先生は抜群のタイミングで
「今説明しまんがな。娘と一緒で話し先進めよ、進めよて,ホンマによう似とるなあ。黙って聞いとき」




その瞬間、診察室に三人の明るい笑い声がおこりました。
先生は癌について「これは人間みんなに起こりえること、私にも起こりえる。
すなわち、お母さん、あんたは私の先輩でもあるということですな」
そして嬉しいことに、リンパ節にも他の臓器にも転移がないことを告げてくださいました。




そして「さあお母さん、手術の方法ですが、全摘で行きまっか。残しますか?」
そう尋ねられました。
すると横にいた父親が「わしも、もうようないしなぁ」
私も「いまさら写真集出すわけでもないし、リスク少ない全摘でどや」
「ほな、そうするわ。センセ、よろしゅうお頼みします」
先生も看護師さんも大笑い。何とも明るい告知でした。




先生にお礼を述べて診察室を出た私は、家で結果を待つ家族に
「ステージ2。リンパ、他の臓器の転移なし。
手術は二時間。一週間で退院予定。安心して」と
まるで癌でなかったような電話をしていました。
ひとえに患者に安心感を与えてくださった、「プロ」の先生のおかげです。
ぼくもこんな先生やったら診てもらいたい、そう思わせるような先生でした。
母親はまだ当分、元気でいてくれそうです。



                          続く。