「メガネ越し、傍目八目(おかめはちもく)、右も左もぶっとばせ!」





ポール牧さんがようやく売れだし
テレビにも出演するようになった昭和五十年のころです。



ポール牧さんは大の相撲ファン
あの横綱北の湖とも義兄弟の契りを交わしているぐらい。
そのポール牧さんがある日、春日野部屋を訪れて親方にこう切り出しました。



「親方、私は今日、親方にお詫びを申しに参りました。
実は私は、いまから十年以上前に
親方に内緒でこの部屋に無断で居候をしておったのです。
それを今日は詫びに参りました」
するとこの親方は、ポールさんの顔を見て二ヤッと笑いながら
「お前さんがこの部屋に居候をしていたこと,俺は知っていたよ」
びっくりして親方の顔を見るポール牧さん。話はこうです。



昭和三十年代の終わりごろ、当時、芸人を目指していたポール牧さんは
売れない時代を過ごしていました。金もない、今晩の寝るところもない
そんな状態で行きつけの喫茶店で、へたりこんでいました。
そこへ常連の若い力士たちがやってきまして
元気のないポール牧さんを見て「どうしたの、元気ないね」
ポール牧さんは今の状態をその力士に話したところ
「なーんだ、そんなことか。じゃあうちの部屋へおいでよ」
「え?相撲部屋?」
「うちは大所帯だろ。なーに、一人ぐらい交じっててもわかりゃしない。
かまわないからおいで」なんとものどかな時代です。
そしてこの日から前代未聞、素人相撲部屋無断居候が始まったのです。
さあどうなることやら・・・・・続く