「メガネ越し、傍目八目(おかめはちもく)、右も左もぶっとばせ!」








「俺はあん時、おまえさんを叩き出そうと二階へあがって行った。
でも、障子を開けようとしたら、あの大きな笑いだ。
覗けば、真ん中に汗だくのおまえさん。
それを見て俺には叩き出すことは出来なかった。
それに、力士といえどまだ子供。
故郷を後にして、さびしい思いをしている子供たちから受けた恩に
何とか報いようとしているその必死な姿に出て行けとは言えなかった。
だから俺は自ら部屋を出ていくその日まで
気付かぬふりをしていよう、そう心に決めたんだ。
相撲部屋に転がり込んで来るほどのおまえさんのことだ。
今日、ここに至るまでの苦労は並大抵ではなかっただろう。
でもその苦労が実ったんだ。おめでとう。よかったね。俺も本当にうれしいよ」





この言葉を聞いた時、ポール牧さんは親方、おかみさん、関取衆、
そして若手の力士を前にして、人目もはばからず、大声で泣き出したそうです。






本当に強い人とはどのような人なのか・・・
それが誰よりもわかる地位にありながら
なぜ最後まで気付かなかったのか。
遠い草原から苦労してやって来たドルジ君よ。