「メガネ越し、傍目八目(おかめはちもく)、右も左もぶっとばせ!」




フランス、空中分解して負けちゃいましたね。
いろいろ揉めたみたいですが、結局のところ上も下も両方悪い。



こんな場合は、どんな世界にしても原因は同じようなもんです。
お互いに思いやる謙虚さと、他人をひきつける魅力に両者とも欠けていた
すなわち人としての器の小ささが、露呈してしまったわけです。
よくある話ですね。



闘争心は必要ですが、本当の「大きさ」があれば
少々の無理難題が発生しても、事は進んでいくもんです。
今回と真逆のパターンの話をひとつ。




「喝!」でおなじみの球界の親分こと、大沢啓二さんの高校時代の話です。
昭和二十年代のまだ戦後というべき時代に大沢親分
当時の神奈川商工のエース兼四番に君臨していました。




三年生の最後の夏の予選の決勝戦。もちろんマウンドを守るんのはエース、大沢親分
ところがこの日、どうも審判との呼吸が合わず
ストライクと思った投球はことごとくボールと判定され
イライラがつのるなか、消化不良のようなゲームは1−0で神奈川商工の負け。



最後の学年で手中にしかけた甲子園の切符は寸前で、
彼らの手から逃げて行きました。
収まらないのはエースの大沢親分。泣き崩れるナインを横に涙で目を腫らしながら
ダックアウト裏のトイレに駆け込みました。



こぼれる涙をぬぐおうともせず用をたし始めた親分の横に
一人の若い男がこれまた用をたしに並んできました。
涙の向こうに見えるその人の顔・・・・
なんと今日、自分のウイニングショットをことごとく
「ボール!」とジャッジした球審だったのです。



その瞬間、気がつけば大沢親分の体は
用をたしてる事も忘れてその球審に飛びかかっていました。
そしてその顔面に左右のフックが叩きこまれ、
球審が気を失ったところで、人が止めに入り、ジ・エンド。




翌日、神奈川商工に一年間の出場停止処分が下されました。
普通なら首をくくるか、横浜の街を去るか、そして野球部は廃部・・・・。
ところが男の人生なんてどう転ぶか
自分はもとより、神様だってわからない。



処分の翌日、失意のなか自宅に引きこもっていた大沢親分の元へ
一人の男が訪ねてきました。
聞けば立教大学の野球部のマネージャーとのこと。何の用かと尋ねたところ、
「我が野球部のOBから、神奈川商工に大沢啓二という度胸のある投手がいる、
取っておいて損はない、そういう話です。君、うちの大学に来ませんか?」
どうも話がもうひとつよく飲み込めない。しかしよくよく話を聞いてるうちに
大沢親分の顔が真っ青に凍りつきました。



何と大沢親分を推薦した野球部のOBとは
二日前に球場のトイレで親分に殴り倒された球審、その人だったのです。




事件が起きた翌日に、彼は立教大学野球部の寮に監督を訪ね、
「技術はもちろんですが、彼の勝負に対する気迫と執念は
ここ一番の勝負の時に必ず役に立ちます。監督、ぜひうちで取って下さい」
自分を殴り倒した年下の高校生を翌日、母校に推薦したのです。
昔の男のなんとハラの据わったことか。




サッカーは確かにもっともグローバルなスポーツで
スーパースターの集まりでしょうが、なに、やってるのは所詮同じ人間。
こんな話を聞くと,もめておられるスーパースター?ちっちゃい、ちっちゃい。     続く。